マルハナバチたちに迫る危機〜外来種・セイヨウオオマルハナバチの侵入・定着マルハナバチってどんなハチ?皆さんは、お庭や公園などで、まるっこくて毛のふさふさしたハチが、花から花へゆっくり移動しながら夢中で蜜や花粉を集めているのをみたことがありませんか?それはたぶん「マルハナバチ」の仲間です。春先に巣作りをはじめた女王バチを中心に、その子ども達が大家族で暮らしています。 図1. 日本で見られる主なマルハナバチ。(上段左から)エゾトラマルハナバチ、トラマルハナバチ、シュレンクマルハナバチ、ミヤママルハナバチ。(下段左から)エゾナガマルハナバチ、オオマルハナバチ、コマルハナバチ、ヒメマルハナバチ。 マルハナバチのエサは、花粉や蜜。でも実は、花のほうでもマルハナバチの訪問を待ち焦がれています。マルハナバチは花粉を運び、受粉を助けてくれる大切なパートナー。どのハチがどの花を訪れるか、実は種類によって、ちゃんとお相手も決まっているのです。花のほうでも、花粉を運んでもらいやすいように様々に色や形を進化させ、もちつもたれつで命をつないできました。 日本には14種類の,北海道には11種類の在来マルハナバチがもともと生息しています。絶滅危惧種を含むたくさんの野生植物の花粉を運ぶ昆虫として、彼らは生態系の中でとても大切な役割を果たしています。
セイヨウオオマルハナバチについて図4.ムラサキツメクサを訪れたセイヨウオオマルハナバチ。 ところが今、その関係に大きな危機が迫っています。外来種・セイヨウオオマルハナバチ (図4;以下、セイヨウと表記)の侵入です。ヨーロッパ原産のこのマルハナバチは、おもに温室トマトの受粉を助ける昆虫として、1992年から本格的に輸入されるようになりました。 それまで、温室トマトを実らせるためには、人の手で受粉を行うか、特殊な薬品を使って受粉なしに結実させる必要があったのですが、前者の方法では大きな手間と時間がかかり、後者の方法ではトマトの味が落ちてしまうという欠点がありました。セイヨウを使うことで、これらの問題は解決され、少ない労力でおいしい温室トマトを作ることが可能になりました。 しかし、最近になって、温室から逃げ出したセイヨウの野生化が目立つようになりました。1996年に初めて自然に作られた巣が確認されて以来、全国で分布を拡大しています。とりわけ、北海道では「身の回りでもっとも普通に見られるハチはセイヨウ」という地域が、街中を中心に今もどんどん広がっています。2006年までに、北海道の180市町村のうち66市町村においてセイヨウが野外で観察されています。 すでに在来のマルハナバチが暮らしているにもかかわらず、セイヨウが新天地でこうまで増えることができたのは、巣作りする場所や花などの資源をめぐる競争に強いためだと考えられています。 セイヨウのひとつの巣から出る新女王バチの個体数は、在来のマルハナバチたちのそれをはるかに上回るものであることがわかっています(図5)。また、セイヨウの体は、この仲間では大きく、頑丈な部類に入ります。こうした特徴は、在来のハチたちとの競争において、とても有利にはたらくことでしょう。 図5.セイヨウオオマルハナバチの1年を通じた生活史。
セイヨウオオマルハナバチが増えると何がいけないかセイヨウが野生化することによって引き起こされる悪影響としては、以下の4つが考えられます。
盗蜜では花粉はまったく運ばれないため、植物にとっては何の利益にもなりません。セイヨウが在来のマルハナバチを駆逐してしまった場合、それまで舌の長い在来のマルハナバチに花粉を運んでもらっていた植物たちが種子を生産できなくなる可能性があります。 |
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