【アーカイブ版】セイヨウ情勢 : 市民参加による外来種(セイヨウオオマルハナバチ)モニタリングと対策のためのリアルタイム情報共有サイト

- 最終更新日: 2015年12月28日

マルハナバチたちに迫る危機〜外来種・セイヨウオオマルハナバチの侵入・定着

マルハナバチってどんなハチ?

皆さんは、お庭や公園などで、まるっこくて毛のふさふさしたハチが、花から花へゆっくり移動しながら夢中で蜜や花粉を集めているのをみたことがありませんか?それはたぶん「マルハナバチ」の仲間です。春先に巣作りをはじめた女王バチを中心に、その子ども達が大家族で暮らしています。

エゾトラマルハナバチ トラマルハナバチ シュレンクマルハナバチ ミヤママルハナバチ
エゾナガマルハナバチ オオマルハナバチ コマルハナバチ ヒメマルハナバチ

図1. 日本で見られる主なマルハナバチ。(上段左から)エゾトラマルハナバチ、トラマルハナバチ、シュレンクマルハナバチ、ミヤママルハナバチ。(下段左から)エゾナガマルハナバチ、オオマルハナバチ、コマルハナバチ、ヒメマルハナバチ。

マルハナバチのエサは、花粉や蜜。でも実は、花のほうでもマルハナバチの訪問を待ち焦がれています。マルハナバチは花粉を運び、受粉を助けてくれる大切なパートナー。どのハチがどの花を訪れるか、実は種類によって、ちゃんとお相手も決まっているのです。花のほうでも、花粉を運んでもらいやすいように様々に色や形を進化させ、もちつもたれつで命をつないできました。

日本には14種類の,北海道には11種類の在来マルハナバチがもともと生息しています。絶滅危惧種を含むたくさんの野生植物の花粉を運ぶ昆虫として、彼らは生態系の中でとても大切な役割を果たしています。

マルハナバチと植物の関係 サクラソウ ツガルフジを訪れたトラマルハナバチ
図2. マルハナバチと植物のもちつもたれつの関係。 図3. 主にマルハナバチに花粉を運んでもらう植物たちの例。左の写真:サクラソウ。本州ではトラマルハナバチ,北海道ではエゾトラマルハナバチが主な花粉の運び手となる。右の写真:ツガルフジ。花を訪れているのはトラマルハナバチ。

セイヨウオオマルハナバチについて

セイヨウオオマルハナバチ
図4.ムラサキツメクサを訪れたセイヨウオオマルハナバチ。

ところが今、その関係に大きな危機が迫っています。外来種・セイヨウオオマルハナバチ (図4;以下、セイヨウと表記)の侵入です。ヨーロッパ原産のこのマルハナバチは、おもに温室トマトの受粉を助ける昆虫として、1992年から本格的に輸入されるようになりました。

それまで、温室トマトを実らせるためには、人の手で受粉を行うか、特殊な薬品を使って受粉なしに結実させる必要があったのですが、前者の方法では大きな手間と時間がかかり、後者の方法ではトマトの味が落ちてしまうという欠点がありました。セイヨウを使うことで、これらの問題は解決され、少ない労力でおいしい温室トマトを作ることが可能になりました。

しかし、最近になって、温室から逃げ出したセイヨウの野生化が目立つようになりました。1996年に初めて自然に作られた巣が確認されて以来、全国で分布を拡大しています。とりわけ、北海道では「身の回りでもっとも普通に見られるハチはセイヨウ」という地域が、街中を中心に今もどんどん広がっています。2006年までに、北海道の180市町村のうち66市町村においてセイヨウが野外で観察されています。

すでに在来のマルハナバチが暮らしているにもかかわらず、セイヨウが新天地でこうまで増えることができたのは、巣作りする場所や花などの資源をめぐる競争に強いためだと考えられています。

セイヨウのひとつの巣から出る新女王バチの個体数は、在来のマルハナバチたちのそれをはるかに上回るものであることがわかっています(図5)。また、セイヨウの体は、この仲間では大きく、頑丈な部類に入ります。こうした特徴は、在来のハチたちとの競争において、とても有利にはたらくことでしょう。

セイヨウオオマルハナバチの生活史
図5.セイヨウオオマルハナバチの1年を通じた生活史。
1 4月頃:女王バチが越冬から目覚め、地面近くをうろうろして巣作りの場所をさがしはじめる。在来のマルハナバチと比べると、かなり早い時期から動き始める。
2 5〜6月頃:ネズミの古巣や、家や倉庫の床下などに巣を作る。自分で巣を掘るわけではないので、巣作りの場所を巡る競争は激しく、ひとつの巣から複数の女王バチの死骸が見つかることも。最初に産んだ卵が働きバチになると、蜜や花粉集めをまかせ、女王バチは産卵・子育てに専念。
3 7〜8月:次から次へと働きバチが誕生。巣が大きく発達する。多いときは数千頭の働きバチが生まれる。
4 8月頃から、翌年の春の営巣を担う「新女王バチ」が生まれはじめる。その数は100頭以上=在来マルハナバチの4倍を超えることも。同じ頃「オスバチ」も生まれる。
5 新女王バチは、ほかの巣から生まれたオスバチと交尾したのち、越冬する。巣を作った女王バチ、働きバチ、オスバチは徐々に死に、花のなくなる秋終盤頃までに活動を終える。

セイヨウオオマルハナバチが増えると何がいけないか

セイヨウが野生化することによって引き起こされる悪影響としては、以下の4つが考えられます。

1. 営巣場所やエサを巡る在来のマルハナバチとの競争
その高い競争能力で、日本にもとから住んでいたマルハナバチたちを駆逐してしまう可能性があります。営巣する環境が重なるオオマルハナバチなどにとっては、特に深刻な問題といえるでしょう。
2. 外来の寄生生物が広まる
輸入されたセイヨウに寄生していたダニ、細菌、ウイルスなどが、在来のマルハナバチの衰退を引き起こす可能性があります。
3. 交雑により、在来のマルハナバチの繁殖を妨害する
実験により、セイヨウと一部の在来マルハナバチとの間で交雑がおきる可能性が示唆されています。
4. 在来マルハナバチに花粉を運んでもらっている植物の繁殖を妨害する
セイヨウはマルハナバチの中では比較的舌が短いため、深い花では舌が届かず、蜜を吸うことができません。そのため、彼らは花の外側に穴をあけて蜜を盗む「盗蜜」をしばしば行います。

盗蜜では花粉はまったく運ばれないため、植物にとっては何の利益にもなりません。セイヨウが在来のマルハナバチを駆逐してしまった場合、それまで舌の長い在来のマルハナバチに花粉を運んでもらっていた植物たちが種子を生産できなくなる可能性があります。